ゆれる。

何気なくネットを見ていたら、1本の映画の噂が飛び込んできたので、衝動的に友達を誘って渋谷の映画館に行ってきた。オダギリジョー主演「ゆれる」である。

東京で写真家として成功した猛は母の一周忌で久しぶりに帰郷し、実家に残り父親と暮らしている兄の稔、幼なじみの智恵子との3人で近くの渓谷に足をのばすことにする。
懐かしい場所にはしゃぐ稔。稔のいない所で、猛と一緒に東京へ行くと言い出す智恵子。
だが渓谷にかかった吊り橋から流れの激しい渓流へ、智恵子が落下してしまう。その時そばにいたのは、稔ひとりだった。

事故だったのか、事件なのか。
裁判が始められるが、次第にこれまでとは違う一面を見せるようになる兄を前にして猛の心はゆれていく。やがて猛が選択した行為は、誰もが思いもよらないことだった──。  
公式ホームページより)


これは、早川猛(オダギリジョー)と早川稔(香川照之)の兄弟の人間関係を中心に描いた物語である。
智恵子が死んでしまった原因は、事故だったのか、事件なのか。
その答えを知るのは、兄の稔と智恵子の橋の上でのやりとりを見ていた弟の猛だけである。物語は、二人の人間模様を写しながらも、最後に猛は兄の稔の証言者として法廷に立つ。。。

映画を見終わった後、しばらく固まってしまった。色んな考えが頭の中を巡った。

久しぶりに観た邦画だったけど、カット割の凄さとセリフの妙と、そして何よりオダギリジョー香川照之の演技力に感動してしまった。
監督は、西川美和さん。まだ32歳らしい。
本当に恐ろしい才能だと思う。セリフを極力少なくし、シーンを繋ぎ合わせて、人間関係を伝える。ほんの隙間だけを残して、観客の想像力が入り込む余地を与えているから、退屈と思う瞬間など1秒もない。

もの凄い映画だと思う。


オダギリジョーは、なぜ法廷であのような発言をしたのだろうか?
これは、この映画を観たほとんどの方が持つ感想だろう。
ぜひぜひ、親しい友人でも恋人でも、2人以上で映画館に足を運ぶべきだと思う。観終わったあと、絶対に話しが弾む!映画の色んなところに???が散りばめられているから。

ただ、一つだけ注文していいのなら、法廷が終わって数年後、スタンドのバイトだった洋平が猛の家を訪問し、ファミレスで食事をするシーン。洋平が猛に向かって、「あんたは俺たちから色んなものを奪って、それで奪いっ放しかよ」
と半ば捨て台詞を吐いて、店を去る。
普通の映画なら何の問題ないシーンであるが、今作品ではここまで非常に映像寄りのシーンが多かったため、このシーンだけ非常に言葉寄りになってしまった。僕はけっこうな違和感を感じてしまった。なんか「あっ、やっぱ映画かぁ」みたいな。まぁ、当たり前のごとく映画を観てる訳やけど・・・でも普段、ファミレスで捨て台詞なんか吐かないでしょ?ちょっとそのシーンだけ浮いてしまったかなぁ、と僕は感じました。
でも、そのおかげで物語のクライマックスに向け、<奪う・奪われる>という兄弟関係が如実に表されたのも事実。なかなか難しいところだと思います。

それにしても、最後の法廷を前に、拘置所の接見室で兄弟がお互いの本質にぐさっと入り込むシーンと、そして何より最後の香川照之の笑顔は、最も印象に残るものでした。
あの微笑はね、ズルイよ。。。

まさしく香川照之、"怪演"だったと思います。