アヒルと鴨のコインロッカー

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)

現在と2年前、という2つの物語が交互に進行していく、一番新しい伊坂さんの文庫本作品。
現在の主人公「椎名」は、大学進学のためにアパートに引越してきたばかり。隣人の「河崎」と挨拶を交わしたことから、本屋を襲って『広辞苑』を盗む計画を持ちかけられ、気持ちもはっきりしないまま、それは実行に移される。
2年前の主人公、ペットショップに勤める「琴美」は、ブータン人の「ドルジ」と同棲している。少し前まで交際していた「河崎」がやたら女好きで、伊坂さん的な台詞を吐く役目を担っている。これに若者3人による猫殺しの事件が絡み合い。。。



物語というのは、基本「起」「承」「転」「結」で構成されているわけで、それこそバルセロナのサッカーのように、素晴らしいパスワークがこの4点から奏でられたときに、読者は本から溢れ出る活字に感動し、圧倒されるのだと思う。そういう意味では、この「アヒルと鴨〜」では、「起」「承」の部分がすごい焦らされている、というか、その原因は主に現在の主人公「椎名」にあると思うのだけれど。はっきりしない部分が多くて、「河崎」と交される会話にも、伊坂作品独特のキレがないような感じもする。一転、2年前の主人公「琴美」は、ドラマにでも出てきそうな快活な女性。この2つの物語の行方がさっぱり分からないまま、ページは進んでいくことになります。

ただ、今回の作品の「転」というのは、それこそ転がり転びまくっているような、それは物語の展開的にも、自分の頭の混乱も含め、かなり予想だにしないことがいきなり起きてしまって、僕は会社に向かう東海道線の中で、あんぐりと口を開けちゃいました。

その後はいつもの伊坂作品らしく、一つずつパズルのピースがはめられて1枚の絵が出来上がっていくような感覚に、もう拍手を送るしかない、というか。必ずしもハッピーな物語ではないけれど、また手に取ってみたくなるような作品です。


「神様を閉じ込めに行かないか?」