回天を伝えるために。

出口のない海 (講談社文庫)

出口のない海 (講談社文庫)



人間魚雷「回天」。発射と同時に死を約束される極秘作戦が、第二次世界大戦終戦前に展開されていた。ヒジの故障のために期待された大学野球を棒に振った甲子園優勝投手・並木浩二は、みずから回天への搭乗を決意する。「特攻部隊」に属する人々の心情と、自分の存在意義の苦悩。命の重みと、青春の哀しみを教えてくれる物語です。


横山さんの作品は、これで3作目になるが、本当に唸るほど読み応えがある。一行一文一語から溢れ出す情景が本当に規格外。横山さんは、自分の中で春樹に次ぐ、物書きとなりそうである。

今作品は、第二次世界大戦の終盤が設定となっており、主人公・並木浩二は、人間魚雷の特攻部隊である「回天」の搭乗員である。最後の解説で、映画化の監督を担った山田洋次さんも書いているが、本小説では、特攻に携わる人たちの人間模様が様々な角度から描かれている。特に、特攻に失敗したり機の故障などで、帰還する搭乗員たちを冷遇するシーンがとても印象深かった。盛大な見送りをして、死んでいる仲間もいるのに、よくのこのこと帰ってこれたな、というわけである。実際に60年前もそうだったのではないだろうか、と考えてしまう。

横山さんの作品は、テーマが刑事であれ、今作品のような戦争であれ、「クライマーズハイ」のような新聞記者であれ、何か他の作家が描くのとは違う視点が必ず織り込まれているような気がする。そこが、とても面白く、新鮮で、時間も忘れて読み耽ってしまう理由なのかもしれません。